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2023.12.15ブログ

【シリーズ・ばい菌】Mycobacterium lentiflavum

Lentとは、しなやかな、遅い、という意味のラテン語のlentusを由来とする。音楽でlento(遅く)という指示があるが、これと同一の語源である[1]。

Mycobacterium lentiflavumは1996年に最初に症例報告された、ヒトの感染症の中では稀な病原体である。M. lentiflavum世界中の土壌や水から検出されている[2]。慢性呼吸器疾患、白血病、透析患者などの免疫不全患者では感染症の原因となる[3]。M.lentiflavumは抗酸菌治療薬に耐性があるとされ、イソニアジドやリファンピシンのMICが非常に高いとされている。感染症の報告では、汚染された気管支鏡に起因する呼吸器感染症や、高齢患者の脊椎椎間板炎、幼児の頸部リンパ節炎などがある[4]。呼吸器や消化器からヒトの体内に侵入し、時間をかけて“ゆっくり“発育する。健康なヒトでは病原性はないとされる。喀痰から検出された非定型抗酸菌が病原性を示すとは限らない。それは、環境からのコンタミネーションや常在菌の可能性があるからである。気管支鏡で得られた気管支肺胞洗浄液(BALF)が喀痰よりも最も診断的に価値が高いとされている。呼吸器病棟の水道水サンプルからM.lentiflavumが検出されたとする、日本の研究がある。気管支鏡を水道水で洗浄する場合、コンタミネーションをきたす可能性がある。BALFからこの細菌が証明された場合、M.lentiflavumの感染症だ!と飛びつきそうになるが、コンタミネーションの可能性を考慮しなければならない[5]。なおM.lentiflavumは、免疫不全者での髄膜脳炎の報告[6]や、免疫不全者での皮膚抗酸菌症の報告[7]もある。そのほか、M. lentiflavumは、小児集団において頸部リンパ節炎を引き起こす重要な新興病原体とされる[8]。

成人患者におけるM. lentiflavumによる呼吸器感染症の臨床的特徴が報告されている。それは、主に女性が罹患することと、胸部CT画像上では結節性/気管支拡張性パターンを示すこと、そして急激な経過を辿らないことである[9]。M. lentiflavumが経験的抗生物質治療に反応しない肺感染症や胸膜炎に関与するヒト病原体である可能性が報告されている[10]。

治療は、これまでにクラリスロマイシン+オフロキサシン+アミカシンを、喀痰培養院生から2カ月、合計6カ月とする症例報告がある[11]。ほかの治療法として、クラリス+エタンブトール+リファブチン、リファブチン+クラリスロマイシン+エタンブトール+シプロフロキサシン、あるいは感染組織(リンパ節など)の切除術、とされている[12]。抗菌薬治療は半年程度の長期的な治療が必要と思われる。

参考文献
[1] エティモンライン英語語源辞典(https://www.etymonline.com/jp)
[2] Emerg Infect Dis. 2011 Mar;17(3):395-402.
[3] Infect Control Hosp Epidemiol. 2023 Nov;44(11):1809-1815.
[4] J Clin Microbiol. 2002 Feb;40(2):728-9.
[5] Infect Control Hosp Epidemiol. 2023 Nov;44(11):1809-1815.
[6] Eur J Neurol. 2023 Apr;30(4):1152-1154.
[7] An Bras Dermatol. 2020 Jul-Aug;95(4):511-513.
[8] Enferm Infecc Microbiol Clin (Engl Ed). 2018 Dec;36(10):640-643.
[9] Int J Infect Dis. 2018 Feb;67:65-69.
[10] BMC Infect Dis. 2015 Aug 19;15:354.
[11] Iran J Microbiol. 2010 Mar;2(1):27-9.
[12] J Clin Microbiol. 2014 Aug;52(8):3121-3.

 

文責:チーフレジデント Yo Ishihara

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